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ネタバレなし【『世界99』感想レビュー】しんどいのにやめられない、"中毒性"の高い問題作

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先日、2026年本屋大賞が発表されましたね!朝井リョウさんの「イン・ザ・メガチャーチ」が見事大賞となりました!大好きな作家の一人なので、読者である自分も嬉しくなりました。僕は結果はニュースで知り、その後授賞式の生中継をアーカイブで見返したのですが、「だと思った!」「納得の結果!」という声が多かったのが印象的でした。

さて、本日は最近読了した「世界99/著:村田沙耶香」を紹介したいと思います。「え、『イン・ザ・メガチャーチ』は?」と思った人もいると思いますが、実はまだ読んでいないんです…。自分の読むスピードよりも読みたい本が増えるスピードの方が速く、本屋大賞の時までに読み切れなかった、というのが理由です…。

なので「イン・ザ・メガチャーチ」はまた読了後に改めて紹介記事を書きたいと思います!

村田沙耶香さんの作品はこれまでも十分にクレイジーでしたが、「世界99」はその中でも一段と狂っていました。とても良い意味で不快で、だからこそ目が離せないこの作品の魅力を、ぜひ紹介させてください!

※ネタバレなしで書いていますが、「何も情報がない状態で読みたい」といった方には一部ネタバレだと感じてしまうかもしれませんので、ご注意ください。

※作中で描かれるいじめや差別、性被害について説明している箇所があります。トラウマや抵抗のある方はご注意ください。

あらすじ

舞台は、清潔で均質な新興都市「クリーン・タウン」。そこで暮らす如月空子(きさらぎそらこ)は、幼い頃から周囲に合わせて人格をトレースし、その場に応じた自分を演じることで生きてきた。

そこでは「ピョコルン」と呼ばれる存在が広く浸透しており、人々の生活や価値観に変化が生じていく。空子はそれに違和感を抱きながらも、環境に適応し続けていくが——。

全体的な感想

衝撃が大きすぎて読んでいてしんどくなる瞬間もあるのに、なぜか読む手が止まらない。そんな強い中毒性を感じる作品でした。

ディストピア作品とされており、確かに世界観はその通りなのですが、内容は実に現代的に感じられました。我々が暮らす世界に当たり前に蔓延る「差別」「性被害」などについて、とても細かく、生々しく描かれています。人間世界の残酷さを嫌というくらい突き付けられるため、読んでいて心が痛くなる場面も多かったです。

綺麗事で終わらせず、目を背けたくなる事実を淡々と描くその筆致は、脳にも心にも強く響きました。

また読み進める中で、「本当に、どう生きてきたらこんな作品が書けるの?」と何度も思いました。それくらいの衝撃作です。

印象に残った一節

展開が進んでいる下巻からの引用は避け、上巻からいくつか選定して紹介したいと思います!

「白藤さんが誘導しようとしているのって、『正しい教』だよね。それって世界一規模が大きいカルト宗教でしょ?それに入信すると、とっても正しくて、自分が世界を守っているんだ、って思えるんだよね。とても楽しそうだし、気持ちよさそうだよね。」

出典:世界99 上巻 p.234

 

現代でも、自分の考えや価値観を絶対的な正義として他者の考えを認められないって人が多いと感じています。まさにそんな人に対して書かれているような描写でした。

 

私は常に細心の注意を払って、もちろん、身の程をわきまえています、私の賞味期限はもう切れて、可愛い存在でも性的な存在でもなくなりました、ということを卑屈ではない形で伝えなければならない。

出典:世界99 上巻 p.253

 

男から性的に見られないための、女性が感じる理不尽な処世術が生々しく描かれていました。こんな処世術を使わないといけないことがおかしい、とみんなが当たり前に思う世の中になってほしいですよね。

 

世界中の人が被害者と加害者を兼ねていて、時には気持ちよく発散しているのでバランスがとれていいのではないかと私は思うが、「明人の世界」には加害者の自分が見えていないので、ひたすら傷つき続けている、と思い込んで世界を呪い続けているのだった。

出典:世界99 上巻 p.325

 

読んでいてグサッと来ました。自分も明人みたいに、自分が加害者だった出来事を忘れて被害者ぶっていないかな。そんなことを考えさせられました。

 

今、小早川さんに縋っている私は、どの世界の私だろうか?これが世界99の私なのだろうか?「同じ感覚」を持っている人を渇望している、この私は、誰に「呼応」して誰を「トレース」した私なのだろうか?本当は、世界①や②や③や④だけでなく、世界99でこの「私」がずっと生きていたのだろうか?

出典:世界99 上巻 p.325

 

人生って勘違いや思い込みで成り立っているのかもと思わされた場面。きっと僕も「世界①は仕事場の自分」「世界②は趣味友達と会う時の自分」「世界⑦は苦手な人間がいる空間での自分」のように、それぞれの世界で独立した自分が存在しているのかもと思いました。そして、それらを傍観している「世界99の自分」も、きっと存在しているのだろうなと。

 

他にもたくさんあるのですが、キリがなくなるので、この辺で区切りたいと思います。ぜひ読む中で自分に響いた文章を見つけてください!

読む前に知っておきたい注意点

特に、下記の内容が描かれている点に注意が必要です。(注意と言いつつ、個人的にはこれも本作の大切な特徴だと感じました。)

いじめ・差別

本作では、ラロロリン人という人種が登場します。普通の人間とは違う存在として、みんな当たり前のように差別をします。その描写がかなりリアルで…。陰湿で過激ないじめの描写もあり、現代のいじめをそのままなぞっているように感じました。

性被害

主人公が学校の帰りに、知らないおじさんに抱きつかれる場面があります。そして洋服にはそのおじさんの精液がついていたという…。

また、おじさんが女子学生に目をつけてしつこくストーカーをする場面など…。

フィクションでありながら、現実と地続きであるように感じられる描写でした。

ピョコルンの存在

「強制的に可愛い生き物・ピョコルン」は、多くの家庭でペットとして飼われています。しかしただのペットとしてではなく、人間(主に男)の性欲処理にも使われています。さらに時代が進み、人間は進化したピョコルンに性行為だけでなく、家事や出産・育児までも押し付けるようになります。自分の下となる存在を都合よくこき使うのも、悪い意味で人間らしいなと感じました。

ちなみに村田さんが書いたイラストだと、↓のような生き物だそうです。

とある書店に掲載されていました。触るとモフモフしていました(笑)

「進化したピョコルンって何?」って思った方は是非読んで確かめてください。ピョコルンに対する印象がかなり変わるので…。(僕は「可愛い→気持ち悪い…。」に変わりました)

村田さんの文章表現力

いじめる側の嫌な視線の動きや嘲笑する時の表情の変化、加害者側の都合のよさや無自覚さなど、行動・表情・心情の機微がとにかくリアルに丁寧に描かれていて、その表現力の高さに圧倒されました。いじめた側でもいじめられた側でもないのに、読むたびにグサグサと心に刺さったり頭を撃ち抜かれる衝撃を感じたのは、この表現力があったからだと思います。

この作品が描くもの

  • いじめの加害者が都合よく過去の過ちを忘れて過ごす
  • 今まで差別していたラロロリン人を、都合よく使い倒す
  • ピョコルンを奴隷のように使う
  • どんな世界線でもなくならない格差社会や性被害

など、人間の気持ち悪さが思い存分に暴露された本です。人間はとにかく何かに犠牲を強いることでしか生きていけない弱い生き物だなと…。

人間の見られたくない醜さやばれたら不都合な事実を「もうやめて」というくらい叩きつけられました。

人間って何だろう。

何のために人間は生きているのだろう。

人間の価値って何だろう。

そんな人間世界の根底から考えさせられる作品でした。

こんな人におすすめ

本作はかなり人を選ぶ作品ですが、以下に当てはまる方には強く刺さると思います!

  • 人間の気持ち悪さを思い存分感じたい人
  • 性被害や差別、いじめといった過激な描写に抵抗がない方
  • 脳がショートするくらいの衝撃を味わいたい方
  • 生きる意味や人間の価値について考えさせられたい方

まとめ

人間は性欲、加害欲、愛情、充実感など色んなものを満たそうとして生きています。でもいざそれらが満たされると、次は生きる意味を見失う。都合が良すぎで傲慢でおこがましく、非常に面倒くさく残酷なのが人間だなと改めて感じさせられました。

世界99は上下巻で合計800ページ以上もある長編。でも無駄な描写なんて一切なく、その長さには確かに意味があったと読み終わってから実感しました。きっと読み終わりそうな頃には、「もっとこの世界を見ていたい」と感じるようになると思います。

毒のような苦しさ、麻薬のような依存性、吐き気に似た気持ち悪さ、錯覚に近い救済、破滅と再生。形容しがたい様々な要素が詰め込まれた本作を、ぜひ堪能してみませんか?

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